くさやの匂いを一度かいだら、忘れられないという人は多いものです。「部屋中に充満するあの香りの正体は?」「本当においしいの?」と半信半疑の方もいるかもしれません。この記事では、くさやの匂いの理由や味わい、作り方や歴史まで、気になるポイントをやさしく解きほぐしていきます。
くさやとは?強烈な匂いの正体をざっくり解説
くさやってどんな食べ物?
くさやは、アジ・トビウオ・カタクチイワシなどの小魚を「くさや液」に漬けて乾燥させた、日本の伝統的な発酵食品です。干物の一種ですが、漬け汁そのものが発酵している点が特徴で、強烈な香りと濃い旨味が魅力です。
奈良時代から続く干物文化の中で発達した保存食で、現在は伊豆諸島(特に八丈島)などの島しょ部の名物・特産品として知られています。珍味好きの間では「日本を代表する発酵珍味」として位置づけられているほどです。
なぜあそこまで「くさい」と言われるのか
発酵によって生成されるトリメチルアミンや硫黄化合物、揮発性の有機酸が、くさや特有の強い匂いを生み出します。匂いは非常に強烈ですが、それ自体が腐敗を意味するわけではありません。
くさやは塩分濃度が高く、水分も少ないため、病原菌が繁殖しづらい環境になっています。「強烈な匂い=高い保存性」と言える側面もあり、シュールストレミングなど世界の強臭食品と同様、発酵過程で生じた成分の集合体が匂いの正体です。
シュールストレミングと並ぶ“世界レベルの強臭食品”
くさやは、スウェーデンのシュールストレミングと並び称されるほどの強臭食品として知られています。どちらも発酵由来の香りが強烈ですが、風味の系統や食べ方は異なります。
シュールストレミングは缶の中でニシンを乳酸発酵させるのに対し、くさやは魚を取り出して乾燥させるため、同じ「強烈な匂い」でも香りの方向性が違います。くさやは焼くことで香ばしさと凝縮した旨味が前面に出るのが特徴です。
近年では「世界の臭い食べ物」の一つとしてメディアに取り上げられ、日本の発酵文化を象徴する存在にもなっています。
匂いの向こう側にある「究極の旨味」
一口食べると分かる、くさや特有の旨味とコク
漬け込みの過程でタンパク質が分解され、グルタミン酸などのアミノ酸が増えることで、口に入れた瞬間の旨味の厚みと余韻が生まれます。
さらに、乾燥によって水分が飛ぶことでタンパク質や脂質、ミネラルが凝縮されるため、少量でも満足感が高いのが特徴です。噛むほどに甘みやコクが広がり、塩味・酸味・苦味・旨味が複雑に絡み合うため、「ただしょっぱいだけの干物」とはまったく違う、奥行きのある味わいになります。
匂いと味が脳内でクセになるメカニズム
強い刺激は記憶と結びつきやすく、そこに旨味成分による満足感が加わることで、くさやは「また食べたくなる味」になりやすいと考えられます。
特にアルコールとの相性が良く、酒を飲む行為そのものの快楽と紐づくことで、「くさや=楽しい時間の象徴」として記憶に残りやすくなります。発酵で生まれたペプチドやアミノ酸は唾液の分泌を促し、「もう一口欲しくなる」感覚を生み出します。
一度ハマると抜け出せない人たちのリアルな声
「最初は匂いで躊躇したが、焼いて食べたら酒が止まらない」「匂い=美味しさと感じるようになった」といった声が多く聞かれます。
ほかにも「家族は逃げるけど自分だけのご褒美おつまみ」「旅行で食べて衝撃、その後お取り寄せリピーターに」「最初は怖いネタとして買ったのに、気づいたらストックしている」といった“沼ハマり”系の体験談も少なくありません。
くさや液(くさや汁)の正体
くさや液とは何か?ただの塩水じゃない発酵液
くさや液は、前回の漬け込みで使った液を継ぎ足しながら育てていく発酵液です。塩分は高めで、さまざまな微生物が共生する「生きた」調味液と言えます。
何十年にもわたって同じ液を使い続ける工房もあり、代々受け継がれたくさや液は、その店独自の微生物バランスと風味を形作る「家宝」のような存在です。単なる塩水ではなく、pHや香り、粘度まで含めて、職人が日々状態を見極めながら管理しています。
くさや液を育てる微生物たち
くさや液の中では、乳酸菌や酵母、その他の常在菌がタンパク質を分解し、旨味や香りを作り出しています。微生物の種やバランスは工房ごとに異なり、それが風味の違いにつながります。
乳酸菌が増えると液はやや酸性になり、雑菌の繁殖を抑えつつ保存性を高めます。一方で、酵母やその他の菌が脂質やアミノ酸を分解することで、複雑な香り成分が生まれます。こうした「微生物の生態系」を壊さないように、季節や原料の状態に合わせて漬け時間や液の補充量を微調整するのが、職人の腕の見せどころです。
なぜ同じ「くさや」でも店ごとに味が違うのか
くさや液の継承方法や塩分、漬け時間、原料となる魚の種類、熟成環境などが、店ごとの個性を生み出します。
さらに、工房の立地(海風の当たり方、気温・湿度)、干し場の素材(木・竹・金網)、乾燥方法(完全な天日干しか、機械乾燥を併用するか)によっても仕上がりは大きく変わります。同じ魚種・同じ島であっても、「あの店のくさやが一番好き」とファンが分かれるのは、こうした細かな違いの積み重ねによるものです。
くさやはどうやって作られるのか
原料となる魚と、くさやに向く魚の条件
くさやには、脂と身質のバランスが良い小型の青魚が向いています。身が締まりやすく、発酵で旨味が出やすい種類が選ばれます。
伊豆諸島ではムロアジやトビウオ、アジ類がよく使われ、地域や季節によって最適な魚種が変わります。あまり大型で脂が乗りすぎた魚は保存性が落ちやすいため、適度な脂と筋肉質な身を持つ魚が重宝されてきました。
塩漬け・発酵・乾燥…シンプルだけど奥深い製造工程
一般的な製造工程は、魚の洗浄 → くさや液に漬ける → 引き上げて天日や風で乾燥 → 熟成、という流れです。シンプルに見えますが、各工程の細かな管理が風味を大きく左右します。
漬け込み中は液の温度管理が重要で、気温が高すぎると発酵が進みすぎ、低すぎると十分に進みません。乾燥工程では、急ぎすぎると芯まで味が染み込まず、逆に乾かしすぎると身が固くなりすぎてしまいます。そのため、天候と相談しながら時間を調整する必要があります。仕上げに短期間寝かせることで、味がなじんで角が取れ、くさや特有のまろやかなコクが生まれます。
「くさや液を継ぐ」という職人の世界
くさや液を継いでいく技術は、職人が代々守ってきた大切なノウハウです。
くさや液は一度捨ててしまうと同じものを再現することが極めて難しいため、工房ごとに細心の注意を払って管理されています。魚を漬けすぎて液が疲弊しないように、時には水や塩を足して「休ませる」こともあります。まるでペットや畑の土を世話するように、日々の観察と微調整を繰り返しながら、“生きた液”を育てていくのです。
歴史が教えてくれる、くさやという保存食の必然
冷蔵庫のない時代に生まれた知恵
くさやは、塩と発酵の力を使って魚を長期保存できるようにした、生活の知恵から生まれました。
大量に水揚げされた魚を無駄にせず、海から離れた場所でも食べられるようにするため、干物や塩漬けといった保存法が発達しました。その中で、漬け汁を捨てずに再利用し続けた結果、いつの間にか発酵が進み、独特の風味と高い保存性を兼ね備えた「くさや液」が生まれたとされています。
島や漁村で育まれたくさや文化
くさやは、漁村や島しょ部での保存食として定着し、地域の食文化として受け継がれてきました。
特に伊豆諸島では、くさやは「島の匂い」とも言えるほど暮らしに根づいた食品で、家庭の食卓や祭事、漁の合間の軽食として親しまれてきました。外から訪れた人にとっては強烈な匂いも、島の人々にとっては郷愁を呼び起こす「ふるさとの匂い」でもあります。
現代まで受け継がれてきた理由
くさやが現代まで受け継がれてきた背景には、高い保存性と旨味、そして観光土産としての魅力があります。
冷蔵・冷凍技術が発達した現在でも、くさやは「長期保存できる栄養価の高い発酵干物」として重宝され、島を訪れる観光客にとっては「旅の思い出を連れて帰れる一品」として支持され続けています。
匂いの先にある、くさやの魅力を味わってみよう
くさやは、強烈な匂いにばかり注目されがちですが、その奥には、発酵が生み出す濃厚な旨味と、島の暮らしに根づいた歴史が息づいています。
何十年も受け継がれるくさや液、天候や魚の状態を読みながら進む繊細な仕込み、工房ごとに異なる微生物の顔ぶれ――そうした要素が重なり合って、「あの店ならでは」の一本が生まれているのですね。
最初の一歩はどうしても匂いに圧倒されるかもしれませんが、焼き立てを少量つまんでみると、その印象がガラリと変わることも多いです。噛むほどに広がる甘みやコク、あとからじんわり押し寄せる余韻は、ほかの干物ではなかなか味わえません。
もしまだ未体験なら、旅先やお取り寄せで「まずは一切れ」から試してみてください。匂いの先に、自分だけのお気に入りの一品が見つかるかもしれません。

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