静岡煎茶のおいしさのひみつ
静岡煎茶の魅力は、濃い緑色の水色と、舌にじんわり残る力強い旨味にあります。同じ「静岡煎茶」と呼ばれるお茶でも、産地や製法、淹れ方によって味わいは驚くほど変化します。この記事では、富士山と海に抱かれた茶畑の環境から、深蒸し・浅蒸しの違い、そして80度前後で淹れる理由まで、静岡煎茶のおいしさのひみつを掘り下げていきます。
静岡煎茶の「力強い旨味」はどこから生まれるのか
静岡煎茶とは?日本一の産地・静岡の「標準」であり「個性」
静岡煎茶は、静岡県で生産される煎茶の総称で、国内生産量の約4割を占める代表的なお茶です。機械化と蒸し製法が進んだ「日本のお茶の標準」でありながら、地域ごとの気候や品種による豊かな個性もあわせ持っています。
同じ静岡煎茶でも、牧之原台地のような大規模産地でつくられる深蒸し煎茶から、山間地の在来種・単一園による浅蒸し煎茶まで幅広く、普通煎茶・深蒸し煎茶といった製法の違いも含めて、大きなカテゴリーを形成しています。栽培される品種も「やぶきた」を中心に、「おくみどり」「さえみどり」など多様で、標高差や日照条件、被覆の有無によって、旨味・渋み・香りのバランスが細かく変化します。
こうした多様性を支えているのが、静岡で高度に発達した製茶技術と流通ネットワークです。摘採から蒸し、揉み、乾燥まで一貫して機械化した工場が多数存在し、県内外の茶商・問屋を通じて全国に流通することで、「静岡スタイルの煎茶」が日本のスタンダードとして定着しています。
富士山と海と霧がつくる、静岡ならではの茶畑環境
伏流水と海風、霧が育てる旨味
静岡の茶畑環境は、富士山の伏流水、温暖な海風、朝霧による寒暖差といった要素が組み合わさり、茶葉の旨味成分の蓄積を助けています。特に牧之原や掛川では、海風の影響で厚みのある味わいが生まれ、山間部では透明感のある甘みが出やすくなります。
太平洋からの湿った風が山地にぶつかることで発生する濃い霧は、新芽を直射日光から守り、葉の中でテアニンなどのアミノ酸がカテキンに変わりすぎるのを抑えます。その結果、渋みよりも旨味・甘味が勝った、やわらかな味わいになりやすいのが静岡茶の特徴です。
標高差が生む、茶期と味わいの違い
静岡では、海抜の低い温暖な平坦地から、標高の高い冷涼な山間地まで茶畑が広がっています。そのため一番茶の生育時期が少しずつずれ、産地ごとの茶期と味わいの違いが明確になります。
平坦地では日照量が多く、力強いコクのある茶葉が育ちます。一方、山間地では昼夜の寒暖差が大きく、香り高く繊細な味わいの茶葉になりやすく、同じ静岡煎茶でも地域によって表情の異なるお茶を楽しめます。
普通煎茶と深蒸し煎茶の違い
蒸し時間で変わる香りと旨味
静岡では、摘んだ生葉をすぐに蒸して酸化を止める「蒸し製」が一般的です。蒸し時間が短いものが浅蒸し(普通煎茶)、長いものが深蒸し煎茶と呼ばれます。
浅蒸しは香り重視のタイプで、葉の形が針のように細長く整い、美しい外観とすっきりした飲み口が魅力です。高めの湯温でも香気が立ちやすく、爽やかな香りを楽しめます。
一方、深蒸しはおよそ1分前後、しっかりと蒸すことで葉の細胞が壊れやすくなり、茶葉は細かく砕けます。抽出性が高く、短時間で濃い緑色と厚みのある旨味が出やすい反面、カップの底に細かな茶葉が沈みやすいという特徴もあります。
特に牧之原・掛川周辺では、この深蒸し製法が地域のスタンダードとして根付き、「静岡といえば深蒸し」というイメージを国内外に広げています。
「80度」がカギになる理由
静岡煎茶の旨味成分と湯温の関係
静岡煎茶の旨味の主役は、テアニンをはじめとする遊離アミノ酸です。お湯が熱すぎるとカテキンなど渋み成分が過剰に抽出され、旨味が隠れてしまいます。80度前後は、甘味をしっかり引き出しつつ渋みを抑えられる、ちょうどよい温度帯です。
特に静岡の深蒸し煎茶は、蒸し工程で細胞がほぐれているため成分が溶け出しやすく、熱湯を使うと短時間でカテキンやカフェインが一気に抽出されてしまいます。その結果、「濃いけれど苦い」状態になりやすく、本来のまろやかさを感じにくくなります。
一方で80度前後なら、テアニンなどのアミノ酸がしっかり溶け出しながら、渋み成分の抽出スピードは穏やかになり、深蒸し特有の「力強いのに角のない旨味」が素直に表現されます。浅蒸しの静岡煎茶でも、やや低めの温度で淹れることで、上品な香りと後味のキレを両立しやすくなります。
70度・80度・90度での飲み比べ
同じ静岡煎茶でも、湯温を変えると味わいがはっきりと変化します。
| 湯温 | 味わいの特徴 | おすすめの楽しみ方 |
|---|---|---|
| 70度 | まろやかでやさしい味わいで、香りは控えめ。深蒸しでは細かな茶葉からじっくり旨味がにじみ出て、とてもソフトな口当たりに。 | 柔らかな口当たりを楽しみたいとき、夜のリラックスタイムに。 |
| 80度 | 旨味と香りのバランスがよく、コクと甘味、香りの調和がとれた状態。多くの静岡煎茶で標準となる温度帯。 | 日常的においしく飲む基準温度として。初めての茶葉の「実力チェック」に。 |
| 90度 | 香りは豊かだが、渋みや苦味が前に出やすい。浅蒸しでは華やかな香気が引き立つ一方、深蒸しでは収れん味が強く出やすい。 | 香り重視の浅蒸しや山間地の煎茶を、キリッとした渋みとともに楽しみたいときに。 |
浅蒸しで香りを楽しみたいタイプの静岡煎茶では90度前後も選択肢になりますが、深蒸しではまずは80度前後からスタートし、味を見ながら調整するとよいでしょう。
プロが実践する「80度」のつくり方
自然に冷ます湯冷ましのコツ
沸騰させたお湯をケトルに入れ、4〜5分そのまま置くと、おおよそ80度前後まで下がります。温度計があれば、より確実に測ることができます。急いでいるときは、沸騰したお湯に少量の冷水を混ぜる方法も簡単です。
もう一つの方法が、「湯冷まし」の作法です。急須や湯のみ、湯冷ましの器に一度お湯を移し替えることで、器を温めながら自然に温度を下げられます。一般的に、器を1回移し替えるごとに約5〜10度下がると言われており、
- ポット(沸騰)
- 湯冷まし
- 急須
と2回移せば、ほぼ80度近くまで冷ますことができます。
静岡の茶工場や専門店では、テイスティングの際に温度計で湯温を厳密に管理しながら味を確認し、自分好みの「80度前後」を見つけています。ご自宅でも、まずは標準の80度から始めて、少しずつ上下させながら味の違いを比べてみることをおすすめします。
静岡深蒸し煎茶の実力を最大限引き出す淹れ方
初心者でも失敗しない基本レシピ
静岡産の深蒸し煎茶をおいしく淹れるための基本の目安は、以下の通りです。
- 茶葉:2g(小さじ山盛り1杯)
- 湯量:100〜120ml
- 湯温:80度
- 抽出時間:30秒
深蒸し煎茶は、葉が細かく砕けているぶん成分が出やすいため、茶葉の量を増やしすぎたり、抽出時間を長くしすぎたりすると、渋みが出やすくなります。最初は「やや少なめ・やや短め」を意識し、もし物足りなければ2煎目以降で調整するのがおすすめです。
茶葉を多め(3g/100ml)にして、20秒程度でさっと落とすと、とろりとした旨味の強い一杯になり、静岡深蒸しならではの濃厚さを楽しめます。粉っぽさが気になる場合は、急須をあまり強く振らず、最後の一滴まで絞りきらないように注ぐと、口当たりがやわらかくなります。
1煎目・2煎目・3煎目で変わる楽しみ方
静岡の深蒸し煎茶は、細かな茶葉が多いぶん1煎目からしっかり味が出ます。煎ごとに湯温と時間を変えることで、同じ茶葉から何通りもの表情を楽しめます。
| 煎 | 目安の条件 | 味わいの特徴 |
|---|---|---|
| 1煎目 | 80度・30秒/茶葉2g・100〜120ml | 深蒸し特有のまろやかな甘味とコクをしっかり味わう、旨味重視の一杯。 |
| 2煎目 | 85度前後・40〜50秒 | 1煎目では隠れていた香ばしさや爽やかな香りが立ち上がり、味わいに立体感が出る。 |
| 3煎目以降 | 熱めのお湯・約60秒 | カテキン主体のキレのある味わいになり、食後の口直しや脂っこい料理の後に最適。 |
静岡の産地では、この「煎を重ねて表情が変わる」楽しみ方を前提にブレンドが組まれていることも多く、一種類の茶葉からでも長く楽しめるよう工夫されています。
まとめ:自分だけの「静岡煎茶の一杯」を探す
静岡煎茶の力強い旨味は、富士山の伏流水や海風、霧などの独特な環境と、浅蒸し・深蒸しといった製法の工夫から生まれています。なかでも深蒸し煎茶は、濃い水色と厚みのある味わいが魅力で、80度前後のお湯を使うことで、テアニン由来の甘味とカテキンの渋みのバランスがちょうどよく整います。
同じ茶葉でも、70度・80度・90度と湯温を変えるだけで、香りや口当たりが大きく変わり、さらに1煎目・2煎目・3煎目と煎を重ねることで、まろやかさからキレのある後味まで、幅広い表情を楽しめます。
まずは基本の「80度・30秒」を出発点に、湯温や抽出時間、茶葉の量を少しずつ動かしながら、自分の好きな「静岡煎茶の一杯」を探してみてください。

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