第4次ブームのその先へ。韓国料理の「五味五色」の教えと、本場の食べ方作法
第4次ブームといわれる盛り上がりの中で、韓国料理は「辛い料理」から、家庭の食卓になじむ身近な存在へと姿を変えつつあります。キムチチゲやビビンバだけでなく、その背景にある「五味五色」の知恵や、一汁多菜のスタイル、本場ソウルならではの楽しみ方まで、奥行きのある魅力をのぞいてみませんか。
韓国料理の「今」を変えた第4次ブームとは?
第4次ブームは何が違うのか:これまでの韓流フードブームのおさらい
第1〜3次のブームは、輸出や在日コミュニティ、屋台文化の広がりが中心でしたが、第4次ブームではK-POPやKドラマの世界的ヒットに後押しされ、家庭料理や発酵食品への注目が一気に高まりました。
SNSや動画を通じて手軽なレシピが拡散され、若年層の食卓にも浸透しています。
とくにキムチチゲ、ビビンバ、トッポギ、サムゲタンなど「家で再現しやすい定番」がショート動画やレシピサイトで標準化され、インスタントソースやレトルト商品の充実によって、韓国料理は「特別な外食」から「日常の家庭料理」へとポジションを変えつつあります。
さらに、第4次ブームならではの特徴として、ビーガン対応のチゲや低糖質ビビンバなど、健康志向と掛け合わせたアレンジも登場し、多様なニーズに応える「アップデートされた韓国料理」が受け入れられています。
K-POP・Kドラマだけじゃない、「Kフード」拡大の背景
エンタメの影響に加えて、韓国政府や企業による食文化発信、健康志向の高まり、発酵食品への関心の高まりが、Kフード拡大の追い風になりました。即席商品やレストランの進化により、誰でも体験しやすい環境が整ってきています。
韓国では2010年代以降、「韓食振興」を国を挙げて推進し、レシピの標準化や食の安全基準づくり、海外フェアの開催などを通じて、Kフードを輸出産業として育成してきました。CJやオットギといった大手食品企業は、インスタントビビンバソースやレトルトのスンドゥブ、辛ラーメンなどを世界展開し、各国のスーパーに「家で作れる韓国料理」のインフラを整えています。
こうした制度面・産業面の後押しと、エンタメ発の消費者ニーズが結びつくことで、第4次ブームは一過性ではない、より長期的なムーブメントへと発展しています。
なぜ日本でここまで韓国料理が受け入れられたのか
韓国料理が日本で広く受け入れられた背景には、味のバランスと食文化の共通点があります。甘味・辛味・酸味・苦味・塩味のバランスや、季節の野菜を中心とした一汁多菜のスタイルは、日本の家庭料理とも相性が良い考え方です。さらに、Kカルチャー全体への親しみやすさも大きな要因です。
日本には味噌や醤油、漬物など発酵食品を日常的に食べる文化があり、キムチやコチュジャン、テンジャンといった韓国の発酵調味料も、違和感なく取り入れやすい土壌がありました。キムチ鍋やチヂミは、スーパーやコンビニで専用の素やミックス粉が販売されるほど定着し、韓国料理は「辛いエスニック料理」から「和食と並んで平日の夕食に出てくるメニュー」へと変化しています。
また、韓国ドラマに登場する食卓シーンを通じて、韓定食の多皿スタイルやサムギョプサルの楽しみ方を具体的にイメージしやすくなったことも、日本の食卓に取り入れられた大きな理由です。
韓国料理を支えるキーワード「五味五色」とは
五味:辛いだけじゃない、韓国料理の基本の味
韓国料理の「五味」とは、甘味・辛味・塩味・酸味・苦味の調和を指します。コチュジャンは辛味と旨味、テンジャンは深い塩味と発酵のコク、カンジャン(醤油)は塩味と香りを担い、これらを組み合わせることで複雑な味わいを生み出します。
加えて、キムチに代表される発酵由来の酸味や、山菜やゴマの葉などに含まれるほろ苦さも重要な要素です。これらが全体の味を引き締め、奥行きを与えます。
例えば、プルコギの甘味は梨や玉ねぎの自然な甘さに砂糖を少量合わせたもので、辛味の弱い人でも楽しめる味わいです。一方、キムチチゲではキムチの酸味・辛味・旨味がスープ全体の骨格となり、豚肉の脂や豆腐のまろやかさがそれを包み込みます。このように、一皿の中に五味が重なり合う構造こそが、韓国料理ならではの「くせになる味わい」を生み出しているのです。
五色:見た目で整える、韓国料理の色の教え
「五色」とは、青(緑)・赤・黄・白・黒の5色を料理に取り入れる考え方で、見た目の美しさと栄養バランスの両方を追求する韓国料理の基本です。ビビンバはナムルの色合いで五色が一目で分かるため、「五色の教科書」ともいわれます。
| 色 | 代表的な食材・例 |
|---|---|
| 青(緑) | ほうれん草、きゅうり、もやしの葉などの葉物野菜 |
| 赤 | 唐辛子、ニンジン、コチュジャン |
| 黄 | 卵黄、かぼちゃ |
| 白 | もやし、大根、ご飯 |
| 黒 | ひじき、キクラゲ、海苔、牛肉の焦げ色 |
宮廷料理や韓定食では、一つひとつの小皿にもできるだけ多くの色を配置し、食卓全体で五色が整うように設計されます。色彩のバランスを意識することが、そのままビタミン・ミネラル・たんぱく質などの栄養バランスにもつながるという、視覚と健康を結びつけた知恵でもあります。
仏教・儒教・宮廷文化が生んだ「一汁多菜」という考え方
韓国料理の一汁多菜は、韓定食に受け継がれる「もてなし」と「健康」を重視した思想です。多皿で少量ずつ食べることで栄養バランスが良くなり、現代の健康志向とも相性の良いスタイルです。
仏教の影響で肉食が制限されていた時代には、山菜や豆類、雑穀を工夫して調理し、味や食感のバリエーションを増やす必要がありました。一方、儒教では祖先祭祀や来客へのもてなしに多くの料理を整えることが重視され、器の並べ方や品数にも厳密な作法がありました。
朝鮮王朝の宮廷では、こうした要素が体系化され、季節の野菜を中心に、焼き物・蒸し物・煮物・和え物・チヂミ(ジョン)などをバランスよく組み合わせるスタイルが生まれます。現代の韓定食レストランもこの思想を引き継ぎ、一つひとつの小皿に五味五色をちりばめることで、「少しずつ、多くの種類を味わう」という韓国ならではの食体験を提供しています。
本場ソウルで体感する「韓国料理の多様性」
宮廷料理が今に残るソウル・京畿道
ソウルとその周辺の京畿道は、かつて王宮と官僚たちが集まった政治・文化の中心地であり、宮廷料理の流れをくむ「洗練された家庭料理」が今も受け継がれています。韓定食やジョンは、脂控えめで繊細な味付けが特徴で、レストランでは季節の食材を使い、伝統的な順序で少しずつ供されます。
脂を抑えて上品に仕立てたカルビチム(牛カルビの煮込み)や、薄味ながら旨味の層が深いスープ(クッ、タン)、数種類のナムルを丁寧に盛りつけたビビンバなど、素朴さと格調の両方を感じられる料理が多く見られます。老舗の韓定食店では、前菜のジョンからスープ、主菜、デザートまで、季節ごとに内容を変えながら一汁多菜の構成を守る、宮廷文化直系の食体験を楽しむことができます。
海と山がつくる、地方ごとの韓国料理
韓国は地域ごとに気候や地形が異なり、それぞれの土地ならではの郷土料理が発達してきました。
- 江原道:冬の厳しい寒さと豊かな山海の恵みを背景に、タラやジャガイモを活かした素朴な料理が親しまれています。干したタラを戻して煮込むスープや、ジャガイモ粉で作る麺・すいとんなど、体を温める料理が多いのが特徴です。内陸部では、山菜や雑穀を使った保存食や素朴な味わいの料理が発達しました。
- 済州島:黒豚と海産物を組み合わせた料理が有名です。
- 全羅道:穀倉地帯らしく、多種多様なおかずが並ぶ韓定食が発達しています。
- 慶尚道:辛味の効いた豚肉料理や、キムチと肉を一緒に炒めるトゥルチギのような力強い味わいの料理が定番です。
こうした地域差を意識して食べ比べてみると、同じキムチチゲやビビンバでも、味の傾向や具材の選び方が微妙に違うことに気づけます。
移民が育てた、多文化な韓国料理スポット
ソウルには、移民コミュニティが育てた多文化なフードスポットもあります。東大門の中央アジア通りや、大林中央市場がその代表的なエリアです。
東大門の一角には、ウズベキスタンやカザフスタン、モンゴルなどから来た人々が営むレストランが集まり、サムサ(焼き餃子のようなパン)、羊肉の串焼きやピラフなどの中央アジア料理に、韓国の唐辛子やキムチを取り入れたハイブリッドメニューが登場します。
第4次ブームの先に見える、韓国料理の楽しみ方
韓国料理は、ただ「辛い料理」ではなく、五味五色の考え方や一汁多菜のスタイルを背景にもつ、奥行きのある食文化だといえます。第4次ブームによって、キムチチゲやビビンバといった定番が家庭の食卓にすっかり入り込み、発酵食品や健康志向といった切り口からも注目されるようになりました。
ソウルや京畿道では、宮廷料理の流れをくむ韓定食に、一皿ずつ丁寧に五味五色がちりばめられていますし、地方へ目を向ければ、海や山、気候の違いから生まれた郷土料理が豊かに受け継がれています。さらに、移民コミュニティによる多文化なフードスポットでは、韓国の調味料と他地域の料理が出会い、新しい味の形が生まれ続けています。
身近になった韓国料理だからこそ、色や味の組み合わせ、器の並び方、土地ごとの違いに意識を向けて味わってみると、いつものキムチチゲやビビンバも、また違った表情を見せてくれるはずです。

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