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定食界の革命児。松屋の「シュクメルリ」に代表される、世界の味を日本流にする力

「牛めしの松屋」が、いつの間にか“世界のローカル料理案内所”になっているのをご存じでしょうか。その象徴が、ジョージア料理を日本の定食に仕立てた「シュクメルリ」です。なぜ松屋は、あえてマイナー料理に挑み、ここまで人気を集めたのか。その舞台裏を掘り下げていきます。

目次

松屋だから生まれた「シュクメルリ」という怪物メニュー

「にんにくの泥」と呼ばれた料理が、なぜ日本の定食になったのか

ジョージア発祥のシュクメルリは、にんにくとミルクで鶏肉を煮込む濃厚な料理です。強烈なにんにく風味から「にんにくの泥」と呼ばれることもありますが、松屋はこれを日本の定食フォーマットに落とし込みました。にんにくのパンチは残しつつ、白いご飯と味噌汁に合うように塩分や旨味のバランスを細かく調整しています。

ここには、「ご飯+味噌汁」を基本セットとして牛めし・カレー・定食を提供してきた松屋ならではのノウハウが生きています。牛丼御三家として長年培ってきた「白飯に合う味」の設計思想を、異国メニューにまで拡張した象徴的な例と言えます。

シュクメルリを国民食級に押し上げた松屋の企画舞台裏

松屋の強みは、企画段階から量産までを一気通貫で見据えた設計力にあります。まず話題性の高い料理を選び、セントラルキッチンで再現可能なレシピへと落とし込みます。価格はワンコイン圏内を意識し、広告とSNSで一気に火をつけることで、短期間で「国民食級」の認知を獲得しました。

その背景には、1973年発売のカレーを1億食突破のロングセラーに育てた経験や、牛丼値下げキャンペーンで一気に客数を伸ばしてきた「話題化→大量供給」という成功パターンがあります。さらに、ECやTikTokなど新しいチャネルも積極的に活用し、店頭とネットを横断して「シュクメルリ=松屋」というイメージを印象づけていきました。

世界のローカル料理を“松屋化”する発想

「知らない国の料理」をあえて選ぶ理由

あまり知られていない料理ほど話題性が高く、既存メニューとの差別化にもつながります。現地の特色をある程度残しながらも、来店ハードルを下げることで新規顧客を呼び込もうとしているのが松屋の狙いです。

牛丼市場が飽和し、吉野家・すき家との価格競争だけでは伸びしろが限られる中、「世界のローカル料理」を取り込むことは、松屋フーズが掲げる多業態戦略(とんかつ、ラーメン、カレー)とも直結しています。牛丼だけに依存しないポートフォリオを築くうえで、異国系メニューは重要な実験の場になっています。

家庭でも出ない味を“ワンコイン圏内”に落とし込む価格設計

松屋はコストパフォーマンスを最重視しています。高価な材料をできるだけ使わず、旨味を引き出す調理法やソース設計で価格を500円前後に収めることを優先しています。

その裏側では、セントラルキッチンでの一括調理と全国配送網を前提に、原価率・物流コスト・オペレーション時間をすべて数値化。牛丼やカレーで培ってきた「低価格・高回転モデル」の延長線上で、異国メニューもビジネスとして成立させています。

ご飯と味噌汁に合うかどうか、という最終ジャッジ

どれだけ個性的なメニューであっても、「ご飯と味噌汁に合うかどうか」が松屋流の最終基準です。このラインを守ることで、定食屋としての安心感を担保しているのです。

牛丼御三家の中でも「定食屋松屋」としてのポジションを強めてきた同社にとって、味噌汁はブランドアイデンティティの一部と言えます。世界の料理を「日本の定食」に翻訳する際も、この「ご飯+味噌汁」へのフィット感が商品化の決定打になっています。

松屋の「シュクメルリ」徹底分解

本場ジョージアのシュクメルリとの違い

本場のシュクメルリでは、オリーブオイルやナチュラルチーズを使うことが多い一方で、松屋版は和食の枠内で受け入れられるよう乳製品やにんにくの量を調整しています。

さらに、牛丼チェーンとして築き上げた調達網を活かし、汎用性の高い鶏肉や乳製品を組み合わせることで、原価と供給の安定性を両立。ジョージア料理でありながら、日本の「洋風定食」として違和感なく受け入れられるバランスに仕上げています。

日本人好みへ寄せたポイント(にんにく・チーズ・とろみのバランス)

にんにくはしっかり効かせつつも、辛味や青臭さは抑え、チーズや牛乳でまろやかな口当たりに調整しています。とろみをつけることでご飯に載せやすくしている点も、日本の食卓向けの工夫です。

ここには、松屋の歴代カレーやキムカル丼などで磨かれてきた「香りの立たせ方」や「油脂の使い方」のノウハウが応用されています。強烈な味を好むコア層と、日常的に通うライトユーザーの双方に受け入れられるよう、微調整を繰り返しているのが特徴です。

牛丼チェーンの厨房で再現するための工夫

下味付けや煮込みのベースはセントラルキッチンで一括処理し、店舗では温めるだけにすることで、工程を簡略化しながら旨味を保つ設計になっています。

牛めしやカレー向けに設計された既存の加熱機器やラインを流用できることも前提となっており、フランチャイズ店舗でも新人クルーが短時間で作業できるレベルまでレシピを分解しています。ラーメンやとんかつなど他業態でも使われている「誰が作っても同じ味になるマニュアル化」が、シュクメルリにもそのまま適用されています。

テイクアウト・冷凍でも味がブレない設計

ソースは安定した乳化状態にして冷却耐性を持たせ、冷凍や弁当でも分離しないような配合になっています。

これは、コロナ禍以降に急伸したテイクアウトやEC需要を背景に、松屋フーズ全体で進めてきたフードテックの成果でもあります。冷凍カレーや鍋セットなどで培った「再加熱しても味が戻る」処方が、そのままシュクメルリ鍋セットや冷凍商品にも活かされています。

ヒットの裏にある、松屋フーズのフードテックとサプライチェーン

セントラルキッチンだからできる“冒険メニュー”の量産

中央調理で品質を均一化できるからこそ、冒険的な味のメニューでも短期間で全国展開が可能になっています。

牛丼・カレー・とんかつ・ラーメンといった多業態を支えるセントラルキッチンは、味の標準化と原価管理の司令塔です。ここで一度「シュクメルリソース」の規格を決めてしまえば、全国約1,000店規模でも、同じ品質の“にんにくの泥”を一斉に投入できます。

原価率とオペレーションを両立させるレシピ開発プロセス

試作から店舗検証、数値化までのサイクルを回しながら、原価と提供時間を最適化しています。フランチャイズ店舗でも再現できる手順に落とし込むことが必須条件です。

松屋フーズは、牛丼の単価を300円台に抑えつつ利益を出してきた経験から、原材料の高騰や人件費増を見据えた「原価率の許容ライン」を明確に持っています。シュクメルリもこの枠組みの中で、提供時間・仕込み量・ロス率などを細かく試算し、ヒットメニューでありながら「きちんと儲かるメニュー」になるよう設計されています。

SNSで映える見た目をどう作り込んでいるか

にんにくバターの艶やとろみ、白いご飯とのコントラストを意識した盛り付けによって、写真映え・動画映えを狙っています。

TikTokやXでのバズを前提に、鍋メニューなら「湯気」や「とろみの糸引き」、定食なら「白飯にかける瞬間」が映えるよう、器やライティングまで含めて検討しています。カレーで蓄積してきた「映えるルーの色味」の知見も、シュクメルリのクリーム色と焦げ目のコントラストづくりにしっかり生かされています。

「世界の味を日本流に」した松屋の名物たち

シュクメルリだけじゃない、松屋の“異国系”メニュー年表

カレーのロングセラー化から、近年のエスニック系メニューや、六厘舎買収による麺系メニューまで、多彩な挑戦が続いています。

1973年に登場したカレーは、その後のキーマカレーやエスニック風カレーへと発展し、「松屋=牛めし+カレー」というイメージを定着させました。さらに、とんかつ業態「松のや」や、2025年に子会社化したつけ麺の名店「六厘舎」との連携により、欧風・アジア・ラーメン系など世界各地の味を“松屋基準”に翻訳したメニューが次々と生まれています。

松屋流アレンジの共通ルール

味・食べ方に関するルール

  • ご飯の上に乗せられるか
  • 味噌汁の邪魔をしない味か
  • 10分程度で食べ切れるリズムか

ビジネス面での暗黙のルール

  • セントラルキッチンで大量生産が可能か
  • フランチャイズ店舗の設備で無理なく再現できるか
  • EC・冷凍商品としても展開しやすい設計になっているか

こうした条件をすべて満たしたメニューだけが、「松屋流アレンジ」として全国展開されていきます。

一般受けしなかったチャレンジメニューと、シュクメルリの特異性

すべてのチャレンジメニューがヒットするわけではありません。スパイスや香草の個性が強すぎて一部店舗のみで終売になったり、オペレーション負荷が高くて短命に終わったメニューも少なくありません。

その中でシュクメルリが突出した成功を収めたのは、

ポイント シュクメルリが満たした要件
味のインパクト にんにく全開で一口目から「分かりやすくうまい」
日本食との相性 クリーム系ソース+鶏肉で、ご飯にもパンにも合う二重適合
オペレーション 牛丼チェーン既存設備で対応できる“温めて盛る”中心の工程
話題性 「ジョージア料理」「にんにくの泥」というワードの強さ
マルチチャネル展開 店内・テイクアウト・冷凍ECのすべてに載せやすい設計

といった条件を高いレベルで満たしていたからだと言えます。

世界のローカル料理を“定食フォーマット”に落とし込む力

松屋のシュクメルリは、「知らない国の料理」をいきなり日常の定食に引き寄せてしまう、同社の設計思想が凝縮された一皿でした。にんにく全開のジョージア料理を、ご飯と味噌汁に合う味へとチューニングし、セントラルキッチン前提でレシピを組み立て、ワンコイン圏内で量産する。さらにSNS映えまで計算に入れて、一気に全国へ広げていく。

その背景には、牛めし・カレーで磨かれた「白飯に合う味」のノウハウ、多業態を束ねるサプライチェーン、冷凍やECを前提としたフードテックが層になって積み上がっています。

世界のローカル料理をただ輸入するのではなく、

  • ご飯+味噌汁に合うこと
  • 10分で食べ切れるボリュームと味の濃度
  • 全国どこでも同じ味を再現できるオペレーション

といった自社のルールに通し、松屋流の“定食フォーマット”に翻訳していく。そのプロセスこそが、松屋を「牛めしチェーン」から「世界のローカル料理案内所」へと進化させているのです。

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