夏バテ対策と言えば「うなぎ」だけじゃない?江戸庶民を支えた小さなスタミナ魚・どじょう
夏バテ対策といえば「うなぎ」を思い浮かべがちですが、江戸の町で食卓を支えてきたのは、実は小さな川魚・どじょうでした。泥の中でたくましく生きるどじょうは、うなぎに負けない栄養と、田んぼや藍染文化ともつながる深い歴史を持っています。本記事では、どじょうの素顔や食べ方、泥臭さを抑えるコツまで、知られざる魅力をたっぷり掘り下げていきます。
「うなぎ一匹、どじょう一匹」とは?江戸っ子が愛したスタミナ食の意外な主役
うなぎと並べられたどじょうのポジション
江戸では、うなぎの代わりに手軽に栄養を取れる庶民のスタミナ源として、どじょうが親しまれてきました。小ぶりながら高タンパクで、蒲焼きや佃煮にすればご飯が進む一品になります。
加賀百万石・金沢周辺では、どじょうをカジカやごりと一緒に甘辛く煮しめた佃煮が前田家ゆかりの名物として定着しました。武家文化と庶民の食卓をつなぐ保存食としても重宝され、地域色豊かな「どじょう食文化」の一角を担ってきたのです。
なぜ今「どじょう」が見直されているのか
うなぎの価格高騰や資源枯渇の懸念を背景に、持続可能な水産資源としてどじょうが改めて注目されています。水田と共生する養殖方法や郷土料理ブームにより、再評価が進んでいるのです。
どじょうは稲作とセットで育てられ、害虫を食べる「田んぼのパートナー」としても評価されています。環境負荷の少ないサステナブルな水産物として、うなぎの代替となるスタミナ食・健康食材という新しいポジションを獲得しつつあります。
どじょうってどんな魚?基本プロフィールと種類
ドジョウとドジョウ科の仲間たち
代表的などじょうはミヤコドジョウ(一般的に「どじょう」と呼ばれる種)で、細長い体と口ひげが特徴の底生の雑食魚です。世界的にも多くの類縁種が知られています。
日本国内だけを見ても、ミヤコドジョウ系統のほか、キタノドジョウやシノビドジョウ、日本固有のホトケドジョウ類など、多様なドジョウ亜科の仲間が生息しています。近年は専門家による遺伝解析や分類の研究が進み、その多様性が明らかになってきました。
水田や用水路に生きるしたたかな生態
どじょうは泥に潜る習性や腸呼吸のおかげで低酸素環境にも強く、水田や小川の底でたくましく生き延びます。春から夏にかけて産卵期を迎え、粘着性の卵を水草に産み付けます。
えらだけでなく腸でも酸素を取り込めるため、水質が一時的に悪化したり、夏場に水田の水がぬるくなったりしても生き残ることができます。冬は水温が下がると泥にもぐって冬眠するなど、四季の変化に合わせた暮らし方をしているしたたかな魚です。
日本各地のどじょうと希少種の話
日本各地には地域ごとに特徴を持つ個体群や、近縁の希少種が存在しますが、河川改修や外来種との交雑によって一部は存続の危機に瀕しています。保全と持続的な利用をどう両立させるかが課題です。
たとえば西日本の山間部には、日本固有で絶滅危惧種にも指定されているレイホクナガレホトケドジョウなどが知られています。ダム建設や水路のコンクリート化によって生息地が狭まりました。一方で、食用ドジョウに混じってカラドジョウなど外来系統が持ち込まれ、在来系の遺伝子が薄まる懸念も指摘されています。
江戸から続く「どじょう食文化」小さな川魚が庶民のごちそうになるまで
徳川家康も惚れ込んだ?筒どじょうの逸話
どじょうは、江戸時代から庶民文化と深く結びついてきました。筒に入れて運ぶ際のエピソードなど、さまざまな逸話が語り継がれています。
たとえば、静岡の惣右衛門という百姓が、わら筒いっぱいのどじょうを徳川家康に献上しようとしたところ、粗い編み目から次々と逃げ出してしまいました。惣右衛門が「欲張りすぎたから空になった」と正直に詫びると、かえってその無欲さを家康が喜び褒美を与えたと伝えられています。この話からも、どじょうが庶民と将軍をつなぐ象徴的な魚だったことがうかがえます。
どじょう料理専門店と「どぜう」文化
浅草の老舗「どぜう」に代表されるように、どじょう専門店では柳川鍋や蒲焼きが定番料理です。甘辛い味付けで骨ごと食べられるのが大きな魅力で、栄養面でも優れています。
江戸期の表記では、歴史的仮名遣いで「どぢやう」「どぜう」と書かれ、のれんや看板の意匠として親しまれてきました。戦後の国語改革で表記は「どじょう」に統一されましたが、老舗店ではあえて昔ながらの「どぜう」の看板を掲げ、江戸情緒とともにその文化を受け継いでいます。
藍染・水田と結びついたどじょうの暮らし
どじょうの暮らしは、藍作や稲作といった水田文化と密接に結びついてきました。良い田んぼは、どじょうの生息地でもあります。
藍染用の藍を栽培する「藍田」では、水を張った田んぼで泥を攪拌しながら葉を踏み込む作業がありますが、その様子は「どじょうすくい」の動きにたとえられてきました。藍作と稲作、水田どじょう漁は長らくセットの営みであり、ジャパンブルーと呼ばれる藍染文化の陰で、どじょうは土と水を豊かに保つ小さな担い手でもあったのです。
うなぎに負けない?どじょうの栄養価をチェック
高タンパク&低脂肪、DHAも豊富などじょうの基本栄養
どじょうは高タンパクで低脂肪なうえ、DHAなどの必須脂肪酸も含んでいます。サイズ自体は小さいものの、栄養密度は高めです。
江戸時代には夏バテ防止の「精のつく魚」として重宝されました。現代でも、脂質を控えつつ動物性たんぱく質やミネラルをしっかり摂りたい人には、うなぎとは少し違ったベクトルのスタミナ食材として向いているといえます。
骨ごと食べるからこそのカルシウム・ミネラル
柳川鍋や佃煮のように、骨ごと食べる調理法ではカルシウムやリンなどのミネラルを効率よく摂取できます。
加賀の佃煮文化のように、どじょうをじっくり甘辛く煮含めるレシピが各地で受け継がれてきた背景には、保存性の高さに加えて、丸ごと食べて栄養を無駄なくいただくという合理性がありました。
うなぎと比べてどう違う?スタミナ食としての実力
うなぎが高脂質でエネルギー量が高いのに対し、どじょうは低脂肪でタンパク質中心の栄養バランスです。持久的な高エネルギー補給というよりも、日常的に摂りやすいバランスの良い栄養源として優秀だといえます。
うなぎに比べてカロリー控えめで、普段の食卓にも取り入れやすいため、「ヘルシー志向のスタミナ食」として、現代の食生活にもなじみやすい存在です。
「泥臭い」は誤解?どじょうが臭くなる理由とゼロに近づけるコツ
泥臭さの正体はどこから来るのか
どじょうの泥臭さは、腸内物質や泥に含まれる有機物由来の匂いが主な原因です。元の水質や生息環境、鮮度によって大きく左右されます。
特に富栄養化した水路や汚れた底泥に棲んでいた個体は、体内に匂い成分をため込みやすく、「田んぼの香り」ともいえる独特の風味が強く出てしまうことがあります。
鮮度・泥・水質…臭みを左右する3つのポイント
どじょうの臭みを左右するのは、主に次の3点です。
- 捕獲直後にしっかり泥抜きがされているか
- 保管温度が適切に管理されているか
- 元の生息環境の水質が良好かどうか
良い田んぼや水田で育った個体は、一般に臭みが少ない傾向があります。水田共生型の養殖場では、水の入れ替えや底土の管理を徹底し、臭みの原因物質をそもそもため込ませない工夫がされています。こうした違いが、「おいしいどじょう」と「泥臭いどじょう」を分けるポイントになっています。
プロがやっている泥抜き・下処理の基本
プロの現場では、ぬか(米ぬか)を使った泥抜きや、冷水で何度も水替えを行う方法、塩で軽く揉んでぬめりを取る下処理が基本です。
佃煮屋などでは、泥抜き後に一度湯通しして血やアクを抜き、酒や生姜を効かせた下煮をしてから本炊きに入ることで、臭みを抑えつつ旨みだけを濃縮させる工夫をしている店もあります。
家でできる!泥臭さゼロを目指すどじょうの下ごしらえ
生きたどじょうの扱いと泥抜きテクニック
生きたどじょうを扱う場合は、まず泥抜きが肝心です。バケツに冷水を張り、数時間から一晩ほど、ぬかを入れて静かに保管すると腸内の泥が抜けます。水は時々替え、冷暗所で管理しましょう。
水量には余裕を持たせ、エアレーション代わりに時おり水面をかき混ぜてやると、酸素不足による弱りを防げます。弱った個体は臭みが出やすいため、できるだけ元気なうちに下処理まで進めるのがコツです。
基本の泥抜きステップ
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1:下準備 | バケツやボウルに冷水を張り、軽く洗った米ぬかをひと握り入れる。 | 金属臭の少ない容器を使うと風味が落ちにくい。 |
| 2:泥抜き | どじょうをそっと移し、数時間〜一晩おく。 | 直射日光を避け、冷暗所で静かに保管。 |
| 3:水替え | 濁りや泡が出てきたら、冷水にそっと入れ替える。 | 急激な水温変化は避ける。 |
| 4:調理前処理 | ザルにあげ、塩を少量ふって軽く揉み洗いしてぬめりを取る。 | 強く揉みすぎると身崩れの原因になるので注意。 |
どじょうと日本の暮らしを、もう一度食卓から見直してみる
どじょうは、うなぎと肩を並べるスタミナ食でありながら、田んぼや藍染といった日本の暮らしと深く結びついた身近な川魚でした。泥に潜って呼吸し、冬は土の中で冬眠するしたたかな生態は、稲作とともに歩んできた日本の農村風景そのものでもあります。
江戸では「どぜう」として専門店が生まれ、柳川鍋や佃煮など、骨ごと味わう料理が発展しました。高タンパク・低脂肪でDHAやミネラルも含み、丸ごと食べることでカルシウムを無駄なく摂れる点も、庶民に受け入れられてきた理由のひとつです。うなぎほどカロリーが高くないため、現代の食卓にも取り入れやすいスタミナ源といえます。
「泥臭い」という印象は、元の水質や泥抜きの状態、鮮度によって大きく変わります。良い田んぼで育ち、きちんと泥抜きされたどじょうは、驚くほどすっきりとした味わいです。郷土料理店や専門店で、その違いをぜひ一度体験してみてください。

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