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長命寺の歴史をかじる。小麦生地の「関東風桜餅」は、なぜ葉っぱで包まれる?

ふんわり香る桜葉に、しっとり焼き上げた小麦の薄皮。ひと口かじれば、江戸の春景色がそっと立ちのぼる――それが関東風の桜餅です。同じ「桜餅」と呼ばれながら、関西の道明寺とは姿も味わいもまるで別物。長命寺からはじまったこの門前菓子の物語と、葉で包む理由をじっくりたどっていきましょう。

目次

長命寺の歴史をかじる。小麦生地の「関東風桜餅」は、なぜ葉っぱで包まれる?

桜餅(関東)とはどんなお菓子?

関東風桜餅の全体像

関東風桜餅は、薄く焼いた小麦生地でこしあんを包み、塩漬けした桜葉で巻いた春の和菓子です。関西の道明寺餅が蒸したもち米の粒感を楽しむのに対し、関東風は軽やかで香ばしいのが特徴です。

桜の季節に合わせて出回るため、花見や手土産として親しまれてきました。江戸の町では、ひな祭りから花見の頃までの「春限定菓子」として楽しまれ、いまも3〜5月の短い期間だけ作る老舗も少なくありません。1個あたり約150kcalと、和菓子の中では比較的軽めで、抹茶や煎茶との相性もよいとされています。

長命寺と関東風桜餅のはじまり

桜の名所・長命寺と門前菓子の誕生

向島の長命寺は江戸時代から桜の名所として知られ、門前で売られた餅が評判になったのが関東風桜餅の始まりと伝えられています。参詣や花見の行き帰りに手軽に食べられる形で広まり、江戸の庶民文化に根付いていきました。

享保年間(18世紀前半)には、長命寺門前の「山本や」が創業します。寺の境内の桜の落葉を活かして葉を塩漬けにし、薄い焼き皮と餡を包んだ「長命寺桜餅」として売り出しました。隅田川沿いは伊勢物語ゆかりの言問橋や向島百花園などとともに花見客でにぎわい、寺社参拝とセットの「観光菓子」として定着していきます。

この「焼き皮+葉巻き」のスタイルがのちに関東一円へ広がり、現在「関東風桜餅」と呼ばれるものの原型になりました。

小麦粉の薄皮が主役:関東風桜餅のしくみ

焼き皮がおいしさを支える仕組み

関東風桜餅の基本は、小麦粉を水や砂糖で溶いて薄く焼いた皮です。焼くことで香ばしさが出て、もちもち感よりも軽さが際立ちます。道明寺粉の「もち粒」とは対照的に、巻いて食べる江戸らしいスナック感が魅力です。

生地はクレープに似ていますが、砂糖の量や水分量、鉄板の温度によって食感が大きく変わります。弱火すぎると固く、強火すぎると焦げてしまうため、加減が重要です。老舗では今も一枚一枚を手焼きし、生地の厚みを微妙に調整しながら、餡と葉の塩気に負けない香りと口どけを引き出しています。

こうした「焼きの技術」は、人形焼やどら焼きと共通する、江戸の焼き菓子文化の系譜にもつながっています。

なぜ「葉っぱで包む」のか?桜葉に隠れた理由

香り・保存性・季節感を担う桜葉

桜葉は当初から「食べられる前提」で使われてきました。塩漬けされた葉には、主に次の3つの役割があります。

  • 桜の香りを付ける
  • 餡の甘さを引き締め、保存性を高める
  • 見た目に季節感を添える

葉で包むことで、生地・餡・葉のバランスが完成します。塩分と香り成分がゆっくり生地と餡に移ることで、時間が経つほど味がなじんでいくのも特徴です。

江戸時代のように冷蔵技術が乏しい時代には、塩漬けの葉が乾燥や劣化を防ぐ「簡易包装材」の役割も果たし、持ち運びにも便利でした。現代でも「葉は食べる派・はがす派」と好みは分かれますが、老舗の多くは「葉も含めて完成形」と考え、口当たりのよい若葉だけを選んでいます。

桜餅(関東)の味を決める、桜葉の産地と加工

桜葉づくりと香りの違い

桜葉は主に関東近郊(千葉・茨城など)で栽培され、収穫後に塩漬けにして保存されます。塩抜きや香り出しの工程で風味が左右されるため、老舗は葉の厚みや塩加減にこだわり、店ごとの微妙な差を生み出しています。

品種としては、大きくて柔らかいオオシマザクラ系が好まれ、葉脈が固すぎないものが上質とされます。春から初夏にかけて採った若葉を塩と一緒に樽に詰め、数ヶ月以上寝かせることで、特有の甘い香りが引き出されます。

近年は衛生管理や品質の安定のため、専門の加工業者が桜葉を一括して塩漬けし、和菓子店に供給する体制も整ってきました。一方で、昔ながらに自社で塩漬けから行う店もあり、その違いが「店ごとの香り」として表れています。

江戸の花見と桜餅(関東)の深い関係

花見文化の中で育った桜餅

隅田川や向島の花見文化の中で、桜餅は欠かせない存在でした。花見団子が大勢でつまむ気軽なお菓子だとすれば、桜餅は手土産や贈答にもふさわしい一品として定着していきます。

隅田川の河岸には茶屋が立ち並び、川風に吹かれながら桜を眺め、抹茶と桜餅を楽しむスタイルは、江戸の行楽の象徴でもありました。川越街道などの宿場町でも、向島の流行を取り入れた桜餅が旅人の土産として広まり、成増の「田中屋本店」のように、桜餅を看板商品としてきた老舗も生まれました。

このように、寺社と街道、花見と旅が結びついたことで、桜餅は「江戸の春」のイメージと強く結びついていきます。

老舗が守る「長命寺桜餅」と現代の関東風桜餅

職人技と大量生産のあいだ

伝統店では、手焼きの薄皮を今も守り、皮の焼き加減や葉の選定に職人技が光ります。一方で、コンビニやスーパーでは大量生産に向くよう、食感や香りが変えられることもあります。

観光地やECサイトでは、老舗の技を生かした高級品が人気です。東京・向島の「山本や」や川越街道沿いの老舗では、あくまで季節限定・店頭中心の販売にこだわり、朝焼いた皮と炊きたての餡、塩加減を見ながら戻した葉を組み合わせて仕上げています。

これに対して、量販店向けの桜餅は、機械で大量に焼いた皮や冷凍生地を使うことが多く、「本物と違う」との声が上がることもあります。その一方で、コンビニやスーパーの存在が桜餅を全国区の定番に押し上げた側面もあり、「老舗の味」と「日常のおやつ」が二層構造で共存しているのが現在の姿です。

関東風 vs 道明寺:2つの桜餅を食べ比べる視点

小麦と米、焼きと蒸しの違い

見た目は似ていても、関東風と道明寺では食感や香りがまったく異なります。関東風は軽く香ばしく、葉の塩気がアクセント。道明寺はもち米の粒感と重厚さが魅力です。両方を食べ比べると、桜葉の効用がよりよく分かります。

関東風は「焼き皮+巻く」構造で、今川焼きやどら焼きと同じく小麦の香ばしさが前面に出ます。道明寺は「蒸した米粒+包む」構造で、ぼた餅やおはぎに近い満足感があります。

道明寺粉は、蒸したもち米を乾燥・粗挽きにした保存食が起源で、熱湯でふやかしてから再度蒸すため、もっちりしつつ粒々の食感が残ります。同じ桜葉を巻いていても、米か小麦か、焼きか蒸しかの違いによって香りの立ち方や塩味の感じ方が変わるので、食べ比べて「葉と生地の相性」を楽しんでみるのもおすすめです。

これからの桜餅(関東):変わるものと変わらないもの

新しいニーズと伝統のあいだで

低糖やヴィーガン対応、海外向けの商品開発が進む一方で、桜葉の安定供給は気候変動の影響を受けつつあります。長命寺由来の文化と職人技を守りながら、新しい形で次世代へ受け継いでいくことが求められています。

近年は、白砂糖を減らしてきび糖やてんさい糖を使ったタイプ、乳製品や卵を使わないヴィーガン仕様、冷凍技術を活用して海外に送れる冷凍桜餅など、多様なアレンジが登場しています。

一方で、気温上昇や天候不順により桜葉の収穫時期や品質が不安定になりつつあり、産地の北日本へのシフトや有機栽培への取り組みも始まっています。観光と結びついた老舗の体験型イベントや、オンラインでの製造ライブ配信など、物語や体験を含めて「長命寺の桜餅文化」を伝えていくことが、これからの関東風桜餅の大きなテーマになっています。

まとめ:江戸の春を包む、小さな物語

関東風桜餅は、長命寺門前の桜の落葉を生かした「長命寺桜餅」からはじまり、小麦の焼き皮と桜葉の香りが重なり合うことで育まれてきた江戸の菓子文化そのものといえます。焼きの技術が生み出す軽やかな皮、塩漬けの葉が与える香りと保存性、そして隅田川の花見や旅の風景と結びついた歴史が、ひと口ごとの奥行きを支えています。

いまは老舗の手仕事からコンビニスイーツ、海外向けのアレンジまで、かたちはさまざまですが、「桜の季節を包んで味わう」という核となる魅力は変わっていません。葉を食べるかどうか、関東風と道明寺のどちらが好みか――そんな小さな違いを楽しみながら、長命寺から続く物語に思いを重ねて味わってみてください。

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