やわらかな餅に、ほくほくの豆とほどよい塩気。素朴な見た目なのに、ひと口で心をつかまれる「豆大福」。コンビニでも和菓子店でも見かける身近なお菓子ですが、そのおいしさの裏側には、塩加減や水、豆や餅への細かなこだわりが隠れています。この記事では、豆大福の基本から老舗の職人技まで、その奥深い世界をのぞいていきます。
豆大福ってどんなお菓子?基本をおさらい
豆大福のシンプルな構造
豆大福は、外側をやわらかい餅皮が包み、その中に粒あんが入り、表面には塩ゆでした豆が散らされているのが特徴です。見た目は素朴ですが、ひと口かむと餅・あん・豆が順番に現れて、それぞれの食感と味わいを楽しめます。
餅皮には、もち米を蒸してしっかり搗いた大福生地を使います。少量の塩を加えることで味が締まり、伸びとコシが生まれます。中の粒あんには、主に北海道・十勝産の小豆が使われ、豆の形と食感を残しながら丁寧に炊き上げられます。表面の豆には赤えんどう豆を塩ゆでしたものを使う店が多く、あえて皮を見せる包み方によって、「豆大福らしい」素朴な表情が生まれます。
普通の大福との違い
豆大福は、豆が入ることで独特の食感と塩味が加わり、ただ甘いだけではない「甘じょっぱさ」が生まれます。豆の存在が風味の主役級になる点が、普通の大福との大きな違いです。
豆が入らない大福は「餅とあん」の一体感を楽しむお菓子ですが、豆大福は「餅・あん・豆」の三層がはっきりと分かれ、噛むたびにリズムのある食感が感じられます。豆の塩味が粒あんの甘さを引き締めるため、砂糖を控えめにしても満足感が得られるのも豆大福ならではです。
東京で有名な「三大豆大福」
東京で「三大豆大福」と呼ばれるのが、泉岳寺の「松島屋」、早稲田・神楽坂エリアの「群林堂」、原宿近くの「瑞穂」といった老舗です。いずれも粒あんの量や塩加減で個性を出し、開店前から行列ができ、午前中に完売することもある人気店です。
松島屋は1918年創業で、看板商品の豆大福は1日1,000個が午前中に売り切れることもあります。たっぷり詰まった粒あんと、存在感のある豆の塩気で多くのファンを掴んでいます。群林堂や瑞穂も、餅の柔らかさ、あんこの炊き方、豆のほくほく感などでそれぞれの持ち味を打ち出し、「東京三大豆大福」として雑誌やSNSでも繰り返し取り上げられています。
職人が一番こだわるのは「塩」
甘さを引き立てる名脇役としての塩
塩は甘さを引き締めるだけでなく、小豆の旨みを引き出す大切な調味料です。入れ方や量によって味の印象が大きく変わります。
豆大福では、「あん」「豆」「餅」のすべてに塩が関わっています。粒あんに少量の塩を加えると甘さに奥行きが生まれ、小豆本来の香りが引き立ちます。豆の塩ゆでは、塩加減ひとつで「主張の強い豆」にも「甘さを支える豆」にもなり、餅生地に入れる塩は全体の味を一体化させる役割を担います。
塩の量が1g変わるとどう変わる?
塩がほんの少し増えるだけで「キリッ」とした塩味が前に出て、少ないとぼんやりした甘さになります。そのため、職人は1g単位で塩の量を調整します。
一釜で数十個分を仕込む老舗では、塩1gの違いで「上品な甘じょっぱさ」から「しょっぱくて重い」印象へと一気に傾いてしまいます。さらに、同じ1gでも、あんに入れるのか、豆のゆで汁に入れるのか、餅に混ぜるのかによって、感じ方が大きく変わります。そのため、どこに何g配分するのかまで、緻密にレシピとして決められています。
老舗がこだわる塩と水質の関係
塩は、粗塩や海塩など種類によってミネラル含有量や風味が異なります。また、水が軟水か硬水かによっても豆の煮え方や味の出方が変わるため、塩との相性も考慮されます。
京都の和菓子文化によく見られるように、軟水は小豆をふっくらとやわらかく煮上げるのに向いており、塩味も角が立ちにくくなります。老舗の中には、あんを炊くときと豆を塩ゆでするときで使う水を変えたり、塩は国産の海塩、仕込み水は地下水や名水を使ったりと、「塩×水質」の組み合わせまで含めて味を設計している店も少なくありません。
豆・餅・あん──三位一体を支える塩加減の科学
粒あんの甘さと塩豆のしょっぱさのバランス
理想的なバランスは「甘さが主役、塩が名脇役」です。お互いがぶつからず、引き立て合う配合が大切になります。
豆大福がもっともおいしく感じられるのは、「ひと口目にあんの甘さが広がり、そのすぐ後から豆の塩気が追いかけてくる」ようなバランスです。ここで塩が強すぎると和菓子らしい繊細さが失われ、弱すぎると普通の大福との違いが分かりにくくなります。甘さ自体は控えめでも、塩があることで満足度が高まり、「もう1個食べたい」と思わせる味わいに仕上がります。
餅の塩味が食感に果たす役割
餅に少し塩を入れると、味だけでなく食感にも変化が生まれます。粘りが整い、喉越しがよくなるのです。
もち米は蒸して搗く過程で粘りと弾力が決まりますが、そこにわずかな塩が加わることでデンプンの水分保持が安定し、時間がたっても硬くなりにくくなります。老舗では餅生地にほんの少し塩を加えることで、「手には付きすぎないのに、口に入れると柔らかく伸びる」理想的な状態を狙っています。
「甘じょっぱさ」がクセになる理由
甘さだけで終わらない余韻が残ることで、次のひと口を誘い、何度でも食べたくなる味になります。
粒あんの糖分がしっかりとした満足感を与えつつ、豆の塩気が後味をすっきりとさせるため、「甘さに飽きる前に、塩がリセットしてくれる」ように感じられます。これは、赤福などのヒット和菓子にも通じる「不易流行」の味づくりで、伝統的な甘さの中に、現代人が好むキレのよさを潜ませる技と言えます。
江戸から令和へ──豆大福の歴史
大福餅の誕生から豆大福が生まれるまで
大福は江戸時代に庶民の間で広まった和菓子で、その後、豆を加えた派生形として豆大福が登場しました。豆を加えることで保存性や風味を工夫したのが始まりとされています。
当初の大福は、あんこを薄い餅で包んだ素朴なおやつでしたが、19世紀頃になると節分の煎り豆文化などと結びつき、生地に豆を練り込んだり表面に散らしたりする工夫が生まれました。塩ゆでした豆を使うことで、塩分による日持ちの向上と甘さを引き立てる役割を兼ね備え、現在の豆大福の原型が形作られていきました。
江戸の庶民のおやつから行列のできる名物へ
江戸から昭和・平成を経て令和に至るまで、地域の名産や職人技が合わさることで、豆大福は名物として定着し、メディアを通じて全国的な人気を得るようになりました。
東京では、泉岳寺や新橋など寺社や宿場町の近くに店を構える老舗が、参拝客や旅人に豆大福を供して評判を呼びました。戦後はデパートや観光地での物産展で知名度が上がり、近年では雑誌・テレビ・SNSで「三大豆大福」が繰り返し特集されるようになりました。「行列に並んででも食べたい和菓子」として、全国からわざわざ買い求めに訪れる人も増えています。
松島屋・群林堂・瑞穂が象徴する東京の豆大福文化
東京の豆大福文化を語るうえで欠かせないのが、松島屋・群林堂・瑞穂といった老舗です。これらの店は、材料選びから火加減、塩の使い方まで、細部にわたるこだわりで世代を超えて支持されています。
松島屋は1918年創業、新橋の新正堂は1912年創業と、100年以上続く店も多く、代々受け継がれたレシピをベースにしながら、時代に合わせて砂糖や塩、水分量を微調整してきました。北海道産小豆や国産もち米へのこだわりはもちろん、京都の和菓子文化に学び、水質や火加減まで含めてあんこ作りを磨き上げていることが、東京の豆大福文化の底力と言えます。
老舗で受け継がれる職人技
毎朝の仕込みで決まる、あんこの「火入れ」
あんこのおいしさを左右するのが「火入れ」です。水分を抜きつつ、豆の形とふっくら感をどこまで残すかという微妙な加減が職人の腕の見せどころです。
小豆はまず下ゆでして渋切りを行い、その後砂糖を加えてじっくりと煮詰めていきます。このとき、鍋のどのタイミングで火を強め、いつ弱めるかによって、あんこの艶や口溶けが変わります。火を入れすぎれば固くぼそっとしたあんに、甘さだけが立った重い印象になってしまいます。逆に火入れが足りないと、水っぽく締まりのない味になってしまうため、職人は日々の気温や湿度も見ながら、火加減を微調整しています。
豆をほくほくに仕上げるゆで加減
表面に散らされた豆は、豆大福の印象を決める大事な主役です。ほくほくとした食感と、噛んだときにふわっと広がる塩気を出すためには、ゆで加減と塩を入れるタイミングが重要になります。
赤えんどう豆は、まず下ゆででアクを抜き、その後、塩を加えた湯でじっくりと煮ていきます。初めから大量の塩を入れてしまうと皮が硬くなり、中まで火が通りにくくなります。そのため、最初は控えめに、仕上げの段階で少しずつ塩を加えて味を整えていくのが老舗流です。こうして仕上げた豆は、口に入れた瞬間は素朴ながら、噛むほどに味わい深い塩気が広がる存在感のある仕上がりになります。
一つひとつ手包みで生まれる表情
豆大福のあの「不揃いな丸み」や「豆が顔を出した表情」は、機械ではなく手包みだからこそ生まれるものです。老舗の工房では、炊きたてのあんと搗きたての餅、ゆでたての豆を前に、職人が流れるような動きで形を作っていきます。
まず、餅生地に豆を混ぜ込み、適度な大きさに切り分けます。その一つを手のひらに広げ、中心に粒あんをのせて包み込み、最後に表面に豆がいくつか見えるように軽く整えます。このとき、力を入れすぎると餅が締まりすぎて硬くなり、逆に緩く包むとあんこが偏ってしまいます。同じ大きさ・同じバランスで包み上げるには、長年の経験と勘が欠かせません。
豆大福が教えてくれる「塩梅」の妙
豆大福は、餅・あん・豆というシンプルな組み合わせながら、そのおいしさを支えているのは、職人が1g単位で調整する塩加減でした。粒あんの甘さを奥行きある味わいに整え、豆には主張と余韻を与え、餅には食感と喉越しを与える──そのすべてに塩が関わっています。
江戸の庶民のおやつから、行列ができる名物へと歩んできた豆大福の歴史の裏側にも、「どの塩を、どの水で、どれだけ使うか」という見えない工夫が積み重ねられてきました。松島屋・群林堂・瑞穂などの老舗が守り続けてきたのは、単なる甘さではなく、「また食べたくなる甘じょっぱさ」の塩梅です。
コンビニの豆大福から老舗の一粒まで、次に口にするときは、やわらかな餅やほくほくの豆の向こうにある、塩と水と火加減が織りなす職人の技を、そっと思い浮かべてみてください。同じ豆大福でも、ひと口ごとに味わいが少し深く感じられるはずです。

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