ベトナム料理と聞くと、フォーや生春巻きの爽やかなイメージが思い浮かびますよね。実際、現地の食卓では、生のハーブや野菜をたっぷり使い、油は控えめという食べ方がごく普通です。この記事では、そんなベトナム料理がなぜ「ヘルシー」と語られるのか、その背景にあるハーブ文化や地域ごとの違いをやさしくひもといていきます。
ベトナム料理が「ヘルシー」と言われる理由
ベトナム料理の基本スタイルと特徴
ベトナム料理は、新鮮な野菜や生のハーブをたっぷり使い、脂や油を控えめに調理することが多いため、「ヘルシー」と評されます。味付けは比較的あっさりとしていて、食卓でヌクマム(魚醤)やライムを加えながら、一人ひとりが好みの味に整えるスタイルが特徴です。
米麺や生春巻き、蒸し物など、軽い調理法が中心で、甘味・酸味・辛味・塩味・苦味の五味をハーブや発酵調味料でバランスよくまとめることで、油が少なくても満足感を得やすい構成になっています。素材の加工を最小限にとどめ、野菜の量が多いことも、全体としてカロリーを抑えやすいポイントです。
中国・フランス文化が与えた影響
ベトナム料理には、中国とフランスという二つの食文化の影響が色濃く表れています。中国からは炒め物や鍋料理、五香粉などの技法が伝わり、約1,000年にわたる支配の中で、強い火力を使う調理スタイルが根づきました。
近代になるとフランス統治時代に、バゲットやパテ、乳製品・肉加工の技術が持ち込まれ、その結果としてバインミーのような料理が生まれました。とはいえ、それらをただ模倣するのではなく、ヌクマムやマムトムといった発酵調味料と生ハーブを組み合わせ、「軽やかで香り高い」スタイルへと再構成したところに、ベトナム料理ならではの個性があります。
北部・中部・南部で異なる味とハーブの使い方
ベトナム料理は、北部・中部・南部で味わいやハーブの使い方が大きく異なります。
北部はあっさりとした味つけと香り控えめのハーブが中心で、マムトムなど発酵調味料のコクを生かしつつ、穏やかなハーブで全体をまとめます。寒暖差のある気候に合った、落ち着いた味わいが特徴です。
中部、とくにフエ周辺では、王宮料理の伝統もあり、唐辛子やレモングラスとともに香りの強いハーブを繊細に重ね、複雑で辛味の効いた風味を生み出します。
南部はメコンデルタの豊かな農産物を背景に、ココナツミルクや甘味のあるタレをよく使い、ハーブや香味野菜をたっぷり添えるのが特徴です。トロピカルで華やかな味わいが楽しめます。
ベトナム料理を支える「ハーブ」という主役
ベトナム料理でよく使われる定番ハーブ
ベトナム料理でよく見かける定番のハーブには、パクチー(コリアンダー)、タイバジル、ミント、レモングラス、シソに似たrau ram(スペアミント系)、春菊に近い香りの葉物などがあります。
このほか、ベトナムミント、ドクダミ、バナナの花、さまざまな葉野菜が地方ごとに使い分けられ、肉料理や麺料理、生春巻きなどのそれぞれに「相性のよい組み合わせ」が経験的に受け継がれています。
ハーブ×魚醤で生まれるベトナム料理らしい香りと味
ベトナム料理らしい独特の香りと味わいは、生のハーブと発酵調味料の組み合わせから生まれます。生ハーブの香りが、ヌクマムやマムトム(発酵エビペースト)のうま味や塩味をやわらげ、さらに酸味(ライム)や辛味(唐辛子)と合わさることで、満足感の高い低カロリーな味わいになります。
たとえば、ヌクマム1:水3:ライム1:砂糖少々という基本比率のつけダレにハーブを加えると、香りの広がりによって少量の油や砂糖でも物足りなさを感じにくくなり、「塩気や脂に頼らないおいしさ」を実現しやすくなります。
生でたっぷり使う理由と、加熱しないメリット・デメリット
ベトナム料理では、ハーブを生のままたっぷり使うことが多いです。加熱しないことでビタミンや香り成分が保たれ、シャキシャキとした食感も楽しめます。一方で、香りが強すぎると好みが分かれやすく、衛生面ではしっかりと洗う必要があります。
生ハーブを多用することで、ボリューム感と満腹感を得やすくなり、そのぶん主食や肉の量を自然と抑えられる利点もあります。ただし、土付きのハーブや路上の水で洗われた野菜などは、現地でも安全面に配慮した扱いが求められています。
フォーに学ぶ「あと乗せハーブ」の楽しみ方
フォーのテーブルに必ずあるハーブセット
フォーを注文すると、横にはライム、もやし、ミント、パクチー、タイバジル、唐辛子などが添えられ、自分の好みに合わせてあとから加えられるようになっています。
この「あと乗せ」スタイルは、淡く仕上げたスープをベースに、各人が香りや辛さ、酸味を自由にカスタマイズするという、ベトナム料理全体に共通する特徴をよく表しています。
香りを最大限に引き出す順番と組み合わせ
フォーにハーブを加えるときは、順番を意識すると香りをより楽しめます。まずライムで酸味を足し、次にもやしやミント、パクチーなど火を通さないハーブをのせ、最後にタイバジルをちぎって加えると、香りが段階的に重なります。唐辛子は少量ずつ加え、辛さを調整します。
スープの熱でハーブが軽く蒸される程度にとどめると、香りはしっかり立ちながらも青臭さがやわらぎ、フォー特有のやさしい牛骨や鶏だしとの一体感が生まれます。
日本の食卓でできる「なんちゃってフォー」用ハーブ使い
日本の家庭でも、身近な食材を使ってフォー風の一杯を楽しむことができます。手に入りにくいタイバジルは、大葉やスイートバジルで代用できます。もやしは軽く湯通しし、ライムがなければレモンで代替しても十分です。
スープは、市販の鶏ガラスープに少量のナンプラー(ヌクマム)と生姜、長ねぎを加えるだけでも、ぐっとベトナムらしい香りに近づきます。仕上げにハーブをたっぷりのせれば、家庭でもベトナム式の「あと乗せハーブ」の体験が楽しめます。
生春巻きだけじゃない!「巻いて食べる」ハーブ活用術
生春巻き(ゴイクン)でのハーブの役割
生春巻き(ゴイクン)では、ハーブは香り付けと脂っこさの中和役として活躍します。たっぷりと包むほど満足感が増し、物足りなさを感じにくくなります。
エビや豚肉、ビーフンといった具材自体は比較的シンプルですが、ミントやパクチー、葉野菜が「香りとボリューム」を補うことで、少ない油でも食べ応えのある一品になります。
揚げ春巻き(チャーゾー)をハーブ&葉野菜で巻く食べ方
揚げ春巻き(チャーゾー)は、そのまま食べるのではなく、生のレタスやハーブで巻いて、ヌクチャム(薄めたヌクマムベースのタレ)につけてさっぱりと食べるのがベトナム流です。
レタスの水分とハーブの清涼感が、揚げ油の重さをやわらげてくれるため、「揚げ物なのに重く感じにくい」食べ方になります。
バインセオや焼き肉を包む「レタス&ハーブ包み」のコツ
バインセオや焼き肉を葉っぱで巻いて食べるときは、葉は大きめのものを使い、ハーブは香りの強弱を意識して層にすると、食感と香りがいきいきと感じられます。
たとえば、外側にレタスやサンチュ、内側にミントやタイバジルを重ね、その上に焼き肉やバインセオをのせて巻くと、一口ごとにパリッとした葉の食感、ハーブの香り、具材のうま味が順番に広がります。
地域別に見るベトナムのハーブ文化
北部:淡い味つけを引き立てる香り控えめハーブ
北部では、控えめな香りのハーブが好まれ、料理全体の味を引き締める役割を担います。
フォーのような澄んだスープ麺や、発酵調味料を使った素朴な料理が多く、ハーブは主役というよりも「輪郭を整える脇役」として、少量をきゅっと効かせる使い方が目立ちます。
中部:辛さと相性抜群、個性の強いハーブ使い
中部では、香りの強いハーブやスパイスを辛味と組み合わせ、力強い味わいを作り出します。
とくにフエの王宮料理では、レモングラスや唐辛子、紫蘇系のハーブなどを組み合わせた、見た目も香りも華やかな料理が多く、辛さと香りのバランスによって「濃厚なのに重くない」味わいを生み出しています。
南部:甘めの味付けと相性のよいトロピカルなハーブ
南部では、甘みのあるタレやココナツミルクと、ハーブや香味野菜をたっぷり合わせるのが一般的です。
メコンデルタ周辺の豊かな気候と農産物を背景に、生野菜やハーブを山盛りで添えるスタイルが根づいており、砂糖
ベトナム料理のヘルシーさは、油を控えた調理だけでなく、生のハーブを主役級に使う食文化そのものに支えられていました。北部・中部・南部で味わいもハーブの表情もがらりと変わり、フォーの「あと乗せ」や、生春巻き・揚げ春巻き・バインセオをレタスやハーブで巻いて食べるスタイルなど、同じハーブでも楽しみ方はさまざまです。
日本の家庭でも、大葉やスイートバジル、ミント、レタスなど身近な葉ものを組み合わせるだけで、「香りでボリュームを出す」「塩と油に頼りすぎない」というベトナム式の発想を取り入れられます。まずはフォー風の麺や、生春巻き、レタス包みから、日々の食卓にベトナムのハーブ使いを少しずつ試してみてはいかがでしょうか。

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